「ゴールド・エクスペリエンス」の日

4月の暮れに、久しぶりにモリヤマから連絡が来た。

「入院した」と。

そこが精神病院であるとすぐわかった。

あいつは、おれと同い年で、大学で知り合った。

重度のアル中で、酒飲むと本当になにを仕出かすかわからない。

4月に彼女に振られたことをきっかけに、

精神が不安定になり、車の牽引ロープで首を吊ろうとしていたところを親に発見され、

そのまま精神病院にぶちこまれた。

振られて「本気で死にたい」と何度も言うそいつを電話で何十回も励ました。

それでも死にたいというので、おれは正直とても腹が立った。

モリヤマのいとこで「A」という少年がいた。

あるとき、モリヤマは沖縄にAを連れて来て、俺に紹介した。

坊主の19歳の、その辺にいくらでもいそうなひょろっとした青年。

「こいつもう、生きられへんねん。」

彼は重いガンを患っていた。

「余命一ヶ月やから、最後に思いっきり遊ばせたろおもてな。」

そういわれてもにわかには信じられなかった。

その目の前で元気そうに話している普通の青年がもうすぐ死ぬ?

約1ヶ月後、モリヤマから連絡が来た。

「A、死んだで。」

それ以来、モリヤマのLINEのプロフィール画像は、

ジョジョ5部のジョルノ・ジョバーナのスタンド「ゴールド・エクスペリエンス」になった。

モリヤマはAの死を間近でみていた。

それでもあいつはロープを握った。

「死にたい」と思う気持ちは、中毒みたいなものなのか。

モリヤマは、傍若無人だが、心根の優しい人間だと思う。

そういう人間ほど、自分の毒が回って死ぬ。

人間誰しもが生きてれば、一度や二度は死にたいと思ったことがあるだろう。

特別なことではない。

おれはモリヤマに言った。

「今日まで生きられなかった奴がいる。そいつの分まで生きないと、あの世でそいつにどんなツラであうんだよ。」

あいつには精神病院をレポートしてもらう。

なんでもネタにしろ。そうすりゃ、死にたいなんて思わないはずだ。

この世は「まやかし」だ。

それでももし、おまえが本当に、それでも自殺するんだったら、おもしろく死なないと許さない。

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